上映作品


北欧の女性アニメーション監督特集
2010年、世界中のフェスティバルで多くの賞を受賞した「アングリーマン」のアニタ・キリ、アカデミー短編アニメーション部門賞を受賞した「デンマークの詩人」のトーリル・コーヴェなど北欧アニメーション界を牽引する4人の女性監督の代表作をセレクト。
アングリーマン〜怒る男〜
■ 原題:Sinna Mann / 英題:Angry Man
■ 監督:アニタ・キリ
■ 2009年 ノルウェー ■ 20min ■ 言語:Norwegian
■ カットアウトアニメーション ©Trollfilm AS
 
【受賞】
2010年 アヌシー国際アニメーション映画祭・審査員特別賞&観客賞
2010年 広島国際アニメーションフェスティバル・グランプリ
ストーリー
ボイは、理由もわからず怒りを爆発させ、暴力を振るう父親の機嫌をいつも気にしている。母親に、父がいなければ生活できないと我慢を強いられ、「自分が悪い子だからパパが怒る」と考えるボイだったが、家の中のことは喋ってはいけないと辛抱していたそんなある日、「誰かに話してごらん」と不思議な鳥と仲良しの犬に励まされ、王様に手紙を書く…。
作品紹介
カットアウトと呼ばれる切り絵とイラスト、オブジェクトによるアニメーションが独特のぬくもりを感じさせます。
原作は現代ノルウェーの児童文学作家、グロー・ダーレの絵本。普段は優しいパパが突然暴力を振るい、その後必ず後悔して謝り、ママはひたすら耐え、息子のボイは怯えながら自分が悪いのかもしれないと責めてしまうという典型的なDVの家族の物語です。
暴力から逃れることは一見最も有効な手段のように思えるし、確かにひとつの方法ではあるけれど、それでは暴力を振るう当事者は救われないままになってしまいます。この物語は、そのように単純にDVから逃れる話ではなく、周りが目をかけてあげること、勇気を出して助けを求めること、そして当事者が治療を受けることが大切であると訴えています。
アニメーションも素晴らしいのですが、どこの国でも抱えている問題であるDVを優しい視線で解決へと導くストーリーもまた心に響く作品です。(細川)
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ミス・リマーカブルの就活
■ 原題:Froken Markvardig & Karriaren / 英題:Miss Remarkable and her Career
■ 監督:ヨアンナ・ルービン・ドランゲル
■ 2010年 スウェーデン、デンマーク 他 ■ 29min ■ 言語:Swedish
■ 2DCGアニメーション
©Joanna Rubin Dranger, Lisbet Gabrielsson Film AB,  A Man& Ink, Bullitt Film 2010
 
【受賞】
2010年 アヌシー国際アニメーション映画祭・国際映画批評家連盟賞
北欧のNordisk Panorama Award 2010
ストーリー
ミス・リマーカブルは、自信家の父と過干渉な母に挟まれ、世の中のトップでなければ生きる意味がないと盲信していたが、就活に失敗、自信喪失に陥る。理想だけではどうにもならず、奮起してもやることすべてが裏目に出る毎日。カウンセラーも職安も頼りにはできず、人生を悲観した彼女は「さよなら、この世」と自殺しようとするが、その時…。
作品紹介
原作はヨアンナ・ルービン・ドランゲル監督によるグラフィック・ノベルで日本でも「わたしを探しに〜本当の自分を見つけるココロの旅〜」というタイトルで出版されている。
モノクロで単純だけど愛嬌のあるイラストのアニメーションで、万国共通の若者の悩みを描く。自分自身を重ねてしまう人もいれば、身近にいる自意識過剰な人を思い浮かべる人もいるでしょう。若いうちは、自分はなんだってできる!こんなもんじゃない!と思っている人は多いはず。
ミス・リマーカブルは有名な学校に入ったり、デザイナーを目指したりと周りの人間に「あなたとは違うのよ」という姿勢で生きているけど、段々とすべてが空回りをし出し、極度の自信喪失に陥ってしまう。その後も何度も挫折を繰り返し、目の下をクマで真っ黒にし、絶望まで経験する。でも、自らの人生の中で「自分探しの旅」をして、やがてミス・リマーカブル (注目されたい人) はミス・リマーカブル (際立った、注目に値する) になっていく。 (細川)
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リディンゴ島のこどもギャング
■ 原題:Lidingoligan / 英題:The Gang of Lidingo
■ 監督:マヤ・リンドストレイム
■ 2009年 スウェーデン ■ 28min ■ 言語:Swedish
■ 3DCG アニメーション ©Garagefilm International AB 2009
 
【受賞】
2009年 スウェーデン短編映画賞
ストーリー
アーティストの両親、姉、そして双子の妹と一緒に、マヤはストックホルムの高級住宅地リディンゴ島へ引っ越してくる。地元のこどもたちと仲良くしたくて、マヤと妹は彼らのイタズラに加わるようになるが、家が金持ちであることを鼻にひっかけたこどもたちのイタズラはしだいに窃盗へとエスカレートしてゆき、怖ろしくなった二人は離れる。
作品紹介
単に家族の絆を描いたドラマかと思いきや、作者の子供時代が反映されたこの20分の短篇アニメには、長い社会主義政権の後に保守政権が樹立した現在のスウェーデンの政治状況への皮肉が込められている。
劇中に登場する子供たちは胸にそれぞれバッジを付けており、マヤたちが付けているのは社会民主党のもので、リディンゴ・ギャングの子供たちが付けているのは保守党のもの。そしてリディンゴ島とはストックホルム郊外の高級住宅地のことであり、つまり本作は60〜70年代に反資本主義を掲げていた人々のその後の“転向”を描いた作品なのだが、描かれる往時を通じて右派政権に引きずられる左派政党という今の政治状的況を物語りながら、作者は長びく不況で一部国民が極右化しつつある傾向にも警鐘を鳴らしているのだ。
まるでネオナチを想起させるリディンゴ・ギャングはなんと実在の窃盗団らしく、作者自身に実際に接触した経験はないらしいものの、そのメンバーは今現在も服役しているというから驚きだ。 (栗本)
 
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デンマークの詩人
■ 原題:Den danske dikteren / 英題:The Danish Poet
■ 監督:トーリル・コーヴェ
■ 2005年 ノルウェー、カナダ ■ 15min ■ 言語:English
■ 手描きアニメーション ©Mikrofilm As, National Film Board of Canada
 
【受賞】
2006年 アカデミー短編アニメ賞
ストーリー
デンマークに住む若く貧乏な詩人が、憧れの作家に逢うためノルウェーに行く。その旅の途中で、彼は一人の女性と運命的な出逢いを果たす。二人は恋に落ちるが、女性には婚約者がいた。女性は、次にあなたに逢う時まで髪を切らないと約束し、ひと束の髪を詩人に渡して離れ離れに…。二人はいくつもの不思議な偶然を経て、やがて恋を成就させる。
作品紹介
デビュー作の『王様のシャツにアイロンをかけたのは、わたしのおばあさん』でアカデミー賞短編アニメーション部門賞にノミネートされたトーリル・コーヴェ監督の2作目にして同賞を受賞した作品。
ほのぼのとした手描きアニメーション、カラフルながらもややくすんだ色味は日本人がイメージする「北欧っぽさ」を感じさせます。ナレーションは『サラバンド』のリヴ・ウルマン。公私ともにイングマール・ベルイマンのパートナーだった彼女が、市原悦子並みに物語に深みを与えています。
詩人・カスパーが会いに行くシグリ・ウンセットはノーベル文学賞を受賞している小説家です。カスパーは小説家に会いに行く途中、彼女の小説のように運命的な恋に堕ちます。しかし、彼女には婚約者がいてその恋は叶わずに一度は別れてしまいます。それでもいくつもの偶然の末、今度は小説家のお葬式で二人は再会を果たします。その小説家はまるでキューピッドのように詩人の人生に寄り添っているのです。一度も会っていないけれど…。
人生とは偶然の積み重ね。両親が出会わなければ自分も生まれて来なかったのです。その奇跡をファンタスティックでロマンチックに描く珠玉のラブストーリー。 (細川)