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1月31日にスウェーデン大使館で行いました、『シンプル・シモン』上映記念シンポジウム『映画が教えてくれること−アスペルガー症候群』ですが、当日の内容について「映画と。」(http://eigato.com/)の藤澤貞彦さんより、特別にレポートをお寄せいただきました。当日の様子が非常によくわかるようまとめてくださっていますので、シンポジウムに参加できなかった方も、ぜひご一読ください。なお、シンポジウムの概要についてはこちら(http://www.tnlf.jp/event_02.html#03)をご覧ください。

また、藤澤貞彦さんは「映画と。」 サイトに、TNLF2012上映作品「シンプル・シモン」の鑑賞レポートも書いていらっしゃいますので、こちらもあわせて是非ご覧ください!
>> 【TNLF_2012】 『シンプル・シモン』アスペルガー症候群、シモンが見る世界の姿
>> 『シンプル・シモン』上映記念シンポジウム 第2部 「映画が教えてくれること:アスペルガー症候群」
■ 『シンプル・シモン』上映記念シンポジウム 第1部  講演 「障害者の自立と北欧社会〜スウェーデンを視察して〜」
2012年1月31日、『シンプル・シモン』上映を記念した、トーキョーノーザンライツフェスティバル2012のイベントがスウェーデン大使館にて開催された。その第一部では、「障害者の自立と北欧社会~スウェーデンを視察して~」と題して金子涼一氏(弁護士)による講演が行われた。金子氏は、自閉症の弟さんがいるということもあり、高校生の頃から社会福祉に関心を持っておられ、ボランティア活動、作業所、NPOなどの見学にも参加。昨年には、スウェーデンに行き、Samhall(サムハル社)やSAIT(スウェーデン補助技術研究所)などの視察をされている。今回の講演はその体験も踏まえ、障害者に対する日本とスウェーデンの意識の違いなどから、「障害者の自立」とはどういうことかなどが語られた。40分という限られた時間ながら、内容の濃い有意義な講演であった。

1.はじめに…自閉症とは
 自閉症は、先天的なコミュニケーション障害が特徴としてあります。「人の気持ちがわからない」ということがよく言われます。その他の特徴としては、言葉をオウム返しにするということがあります。それからこだわりですね。これをしないと落ち着かないということがある。それから規則的なものへの執着、例えばミニカーを正確に並べたりすることが好きというような特徴があります。

2.日本から見たスウェーデン
 @高福祉国A最先端の科学技術と補助器具B障害者への理解が進んでいるC社会全体として障害者を支えている
スウェーデンに行く前は大体こういうイメージを持っていました。
自閉症の弟を持つ私としては、D日本より遥かに進んだ障害者福祉を見てみたい気持ちでスウェーデンに行くことにしたのです。実際にスウェーデンに行ってみると、社会福祉の水準というのは、皆さんも持っているイメージどおり、日本と比較して相当に高い水準にあります。
 しかし、一方で、スウェーデンでも障害者に対する偏見・差別、こういうものはいまだにあります。例えば車いすの方が駅にいたとしても、皆が手を貸すわけではありません。知的障害者が電車の中で奇声を上げている時、なんか変な人がいるなと言う目で見るということもあります。スウェーデンでも、障害者とその家族がマイノリティであることは、日本と変わりがないのです。このように、障害者問題の本質的なところは日本と変わらない点もありますが、やっぱり違うところがあるのですね。

3.日本とスウェーデンの違いとは何か
 二点皆さんに質問があります。1あなたにとって身近な障害者は誰でしょう。2それはどういう障害ですか…決まりましたか?
 ちなみに、私の一番身近な障害者は弟ではなく、自分です。メガネがないと仕事ができない。これは視覚障害になるのですね。これがスウェーデンと日本の発想の違いだと思っています。私は弁護士資格を持っています。目が悪いから雇えない、そういう弁護士事務所はないですね。なぜかというと、メガネが普及しているからなのですね。スウェーデンではさまざまな障害者に対しても同じ発想をしています。障害があっても何ができるのかということを考えるのです。
 日本にいて私が思うのは、この国はどこかがダメなら全部ダメといった見方があるように思うのですね。そこが違います。私は、障害者の方でも健常者より高い能力を持っている部分があると思っています。例えば、清掃業がそうですね。知的障害者の方には健常者のように「大体」ということがない方もかなりいますから、最後まできちっとやり通します。「ゴミが隅に落ちているけれど、まあいいか」そういう風にはならないのですね。

4.Samhall(サムハル社)の場合
 Samhall(サムハル社)は、250の作業所を持ち2万人の障害者が働く、スウェーデン国内有数の清掃サービス業の会社です。社員の外部就職、すなわち一般企業への就職が最終の目的となっています。見学をして分かったこの企業の特徴として、@この人のここを見たら仕事ができるのではないかという視点 Aそれができる仕事の環境をどうやって作るかを考える B障害者を障害者扱いしない厳しさがありました。
 障害のある方でもきちんと仕事ができる環境を作るということとはどういうことか。例えば、重度の喘息のため、IT企業で働けるだけの高い事務処理能力があるにも関わらず一般のオフィスでは働けない人がいます。その人たちには特別な部屋が与えられています。彼らはそこでパソコンを使い、洗濯物や顧客管理をするのですね。しかし、しっかりと環境を整備する一方で、逆に障害を言い訳にさせない厳しさもあるのです。
 マネージャーがこんな話をしてくれました。この会社には欝病の方もいるのですが、ある朝ひとりの欝のかたが「気分が悪いから休みます」という電話をしてきたというのですね。そこでマネージャーはこう答えます。「とりあえず出社して下さい。それで様子を見てダメだったら家に帰って休んでください」すると、電話を入れたほうも反論します。「自分はうつ病だからこの会社にいるわけで、その病気が理由で休むんだ」と。それに対してマネージャーはこう答えたというのです。「サムハルは、あなたの障害がわかった上で働ける場所を作っている。普通病気というのは、風邪をひいて熱が出た、そういうことを言うんだ。あなたに障害があるのはわかっている。あなたは今日熱があるのか。ないのだったらこちらに来なさい」
 働ける環境を会社は作っている。そういう環境がある以上は、あなた方に甘えは許しませんよという発想なのですね。厳しすぎると思われるかもしれませんが、これだけのことを要求するのは、その方への信頼と期待があるということだと思うのです。障害者の能力を信頼し、認め、期待しているからこそ、こういうことができるのですね。

5.障害と補助器具について
 SIAT(スウェーデン補助技術研究所)は、身体障害者用の車いすなど補助機材の開発援助、技術研究から始まり、現在は、認知症、精神障害の補助器具の分野にも業務を拡大しております。最近ではIT技術を利用したサポートも増えております。何のための補助器具かといいますと、自立するためというところに繋がってくると思っています。
 例えば情緒不安定の人、鬱の方を落ち着かせるための大きな椅子というものもあります。椅子全体で身体を包みこんであげるような形になっています。座ると、お腹から胸のあたりに羽のようなシートが付いていて、そこが重石になっている。こういう方たちは締め付けられると落ち着くのですね。そこで休ませて落ち着かせてから仕事に戻ったり、普通の生活に戻る。薬に頼らない。薬を飲めばある程度落ち着きますが、それでは仕事ができなくなってしまう。普通の生活ができなくなってしまうのですね。薬は飲ませる人がいなくてはならないですが、そこに落ち着ける場所があるということで、この椅子ひとつで一人でも生活できるんですよ。この発想は、その人が一人でどうやって生きられるかということなのですね。
 では、なんで一人というふうに考えられる方もいるかもしれませんが、ここが日本と違うところですけれど、スウェーデンでは自立することが美徳とされているのです。高齢者は、将来子供の世話になりたくない、自分一人で住みたいと言う方がすごく多いですし、障害者であってもそれは同じです。
 これは私の考えなのですが、自立するということは、その人を認めるということなのですね。その人の出来ることはさせてあげるべきだし、チャレンジもさせてあげるべきだと思うんです。過度に保護をするということは、その人の可能性を奪ってしまうことにもなるのですね。実際、辛うじて食事はできるけれども薬は一人で飲めない、そういう状態の方に対して全介護をすると、ひとりで食事をすることもできなくなってしまうのです。

6.どうすれば自立ができるのか?
@障害者自身の変化…自立したいという気持ち
A家族自身の変化…自立をサポートするという意識の変化
B関係者の変化…障害者に携わる活動をしている方
 関係者の方の変化、これはどういう事かと言いますと、スウェーデンでは関係者の方の声の上げ方がすごく大きいのですね。障害者の方も権利があるということをすごくアピールしますし、サムハル社にしてもこれだけクォリティーの高いものが出せるんですよということを、TVCMや広告でアピールする。企業に対する飛び込みの営業もする。地域のコミュニティに対してもアピールする。とにかく自分たちの存在をアピールするのです。
 日本の障害者、その家族、関係者は、今までどちらかというと、健常者の世界から離れていることが多かったと思います。家族が家の中に、あるいは作業所、施設の中にずっと置いてしまうというようなことが多かったからだと思います。スウェーデンとはまったく逆ですね。
C社会の変化…社会の周知、どれだけたくさんの人が知っているのか
 『シンプル・シモン』の中で、アスペルガー症候群のシモン君が人と出会うシーンが何回かあります。で、相手の気持ちがわからないことを言ってしまい、謝るんです。「ゴメン、私はアスペルガーだから」って。それでも謝られた方が「えっ、アスペルガーって何?」っていう表情をするシーンが出てこないのです。これは、社会が認知していることだと思うのですね。その点、日本は、まだまだ障害者に対する認知度が低いんです。原因としては、一つには、障害者の周りの人たちがアピールすることができなかったこと。それと、二つ目として、健常者のほうも障害者に対してどれだけ目を向けているのかということだと思います。ここが変わっていかないことには、障害のある人への信頼は生まれてこないと思います。

7.社会を変化させる上での映画の役割
 私にとっては、障害者と兄弟というのは、大きなテーマです。兄弟というのは、親子より客観的に見られるのですね。今回映画祭で上映される『シンプル・シモン』は兄と弟。この後、シンポジウムに出席される赤ア正和監督の『ちづる』は、兄と妹。同じく井上和生監督の『音符と昆布』は姉と妹が主人公の作品です。『ちづる』は、自閉症のいる家族をそのままに表していて、私はとても共感を持ちました。こういう風なリアルなノン・フィクションを観た上で、またフィクションである『シンプル・シモン』『音符と昆布』を観ていただいたら、障害のことがよくわかるのではないかと思います。
 まずは、映画を観ることによって、世の中に本当にこういう人がいるんだということを知っていただきたいのです。そして、電車の中に乗ってみてください。多分いるんじゃないかと思うんですね。ものすごく身近に。路上生活者の中にもたくさんいるようです。
 これは皆さんにお願いしたいことでもあるのですが、映画というものは、スクリーンを通してその障害を見ることができるのですね。はっきり言って、初めて目の前で障害のある人に会うのは、ハードルが高いと思います。けれども、映画を観て、ああこういう人がいるんだ、こういう人にはこんな特徴があるんだということを分かった上で、それでまた一歩近づいて会っていただく。その一歩が、障害のある人の自立というのに繋がっていくと私は思っております。私もこれから今回の経験を通して、もっと障害のことを知っていかなければならないと思いますけれども、本当に障害というのは特別なものではないのだということを、皆さん知って帰っていただきたいと思います。

(文:藤澤貞彦 / 写真:Joshia Shibano)

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