上映作品

NORTHERN FOCUS

北欧映画界を牽引する監督たちの待望の新作、未公開作を一挙上映!第一線で活躍し続けている注目すべき監督たちにフォーカスする。

好きにならずにいられない

■原題:Fúsi■英題:Virgin Mountain
■監督:ダーグル・カウリ(Dagur Kári)
■出演:グンナル・ヨンソン(Gunnar Jónsson), リムル・クリスチャンスドウティル(Ilmur Kristjánsdóttir),Sigurjón Kjartansson,Arnar Jónsson,Margrét Helga (マーグレット・ヘルガ・ヨハンスドッティル)
■2015年 アイスランド■93min■言語:アイスランド語(Icelandic) ■字幕:日本語 ■提供:マジックアワー

ジャパンプレミア
(ジャパンプレミア)
主演グンナル・ヨンソンのインタビュー映像上映付き
2/11(木)14:00〜

ダーグル・カウリ(Dagur Kári)
TNLF2012での監督特集も好評だったアイスランドの俊英。地元アイスランドを舞台にした2003年の長編デビュー作『氷の国のノイ』で国際的にその名を知らしめる。続く長編作品『ダーク・ホース』(05)はコペンハーゲン、”The Good Heart”(09)はニューヨークを舞台にしているが、『好きにならずにいられない』では再びアイスランドで撮影している。社会のはみ出し者を包み込むような優しさとアイロニックな視点を併せ持ち、アート・センスの光る独特な映像と、自身が手掛けるメランコリックなスコアで人々の心に静かな余韻を残す。音楽ユニットSlowblowのメンバーとしても活躍中。現在、母校のデンマーク国立映画学校で教鞭を執っている。

巨大な男フシは43歳独身、いまだに母親と暮らし、空港で荷物の積み下ろしの仕事の他は、第二次世界大戦のフィギュアで戦争ごっこをすることが唯一の楽しみ。ある日、母親からダンス教室のクーポンをもらった彼は、出掛けてはみるが会場の前で臆してしまう。結局参加することができずに車の中で時間を潰すうちに、いつしか横殴りの嵐が襲いかかる。そんな中、一人の女性が助けを求めて、車の中に入ってくる。いつもは、同僚から馬鹿にされ、苛められているフシだったが、彼女が自分のことを一人前の男として扱ってくれたことから、急速に惹かれていく。2人は少しずつその距離を縮めていくのだったが、彼女が精神に問題を抱えていたことがまもなくわかる。フシは彼女を助けずにはいられないという純粋な思いを抱き、そこから自分の人生を大きく変えていくことになるのだった…。

TNLF2013で特集を組んだダーグル・カウリ監督の待望の新作『好きにならずにいられない』は、第12回ノルディック映画賞受賞、2015年の北欧映画No.1に輝き、各国映画祭でも高い評価を得た作品だ。製作は、『湿地』、『エベレスト3D』のバルタザール・コルマウクル。主役のフシには、監督が15年前に見たテレビ番組で一目ぼれしたという、グンナル・ヨンソン。本作は、監督が彼のために特別に用意したもので、その期待に見事に応えたグンナル・ヨンソンは、トライベッカ映画祭主演男優賞を受賞した。
英語タイトル『ヴァージン・マウンテン』とは、主人公フシのこと。山のような大きな男が女性を知らなかった、という意味を持つ。アイスランドの閉ざされた空間が舞台という点で、カウリ監督の長編デビュー作『氷の国のノイ』(03)との共通点はあるが、両作がまるで異なるテイストになったのは、グンナル・ヨンソンの個性によるところが大きい。体重100キロ以上の巨大な身体を持ちながら、小さなフィギュアを器用に扱う彼の大きな手、そこに子供のように純真な心を持つフシの本質がよく出ている。ノイが若くてIQも高く、きっかけさえあれば無限の可能性を秘めていたのに対して、フシは43歳、見かけも悪ければ、何の才能もなく、暗澹たる状況にある。それでも彼の純粋な心、その一途さは、ノイが突き破れなかった壁を壊す。アイスランドの厳しい自然環境が、ノイを氷漬けにでもするかのように閉じ込めていたのに対して、フシの場合は、自然までもが彼に味方しているかのようである。空港という、その気になれば何処までも世界が広がっていく場所でフシが勤務している点も、この作品のひとつのポイントであろう。(藤澤)